研究紹介:WPW症候群コンピュータシミュレーション
概要
若年者の心臓不整脈および心臓突然死の原因の1 つであるWolff-Parkinson-White (WPW) 症候群の病態解明に関するコンピュータシミュレーション研究を行なっています.
ヒト心臓には,ペースメーカー細胞(洞房結節)で発生した心拍リズムを心臓全体に秩序立って伝え,効率的に心拍動を行わせるための刺激伝導系という構造が埋め込まれています.この刺激伝導系の構造により,まず心房が収縮して心室に血液を送り込み,少し遅れて心室が収縮して全身や肺へ血液を送り出すという合理的な拍動パターンが作られます.したがって,心房と心室の間は基本的には絶縁されています.唯一,房室結節(田原結節)のみが,心房と心室とを電気的に繋いでいます.
WPW症候群の原因は,心臓内の正常な刺激伝導系とは別に,先天的に心房と心室とを電気的につなぐ副伝導路が存在することです.WPW症候群は,心電図検査や電気生理学的検査の発達により,副伝導路の大まかな位置により分類されてその性質も明らかにされています.カテーテルアブレーションにより根治が可能であり,治療成績も良好です.
WPW症候群のシミュレーション研究も1980年代から行われており,WPW症候群に置ける不整脈を再現し臨床心電図と一致した結果が得られたと報告されています.
一方,意外と基本的なことが明らかになっていなかったりします.例えば副伝導路の大きさはどのくらいなのか?電気生理的な性質は?頻拍発作を起こす条件は?副伝導路は生まれつき存在するのに症状が現れるタイミングが人それぞれなのは何故なのか?これらの疑問を解き明かすヒントを,シミュレーション技術により得る研究を心臓病理医・小児循環器内科医らと共同で行なっています.
論文・発表
- “High accessory pathway conductivity blocks antegrade conduction in Wolff-Parkinson-White syndrome: a simulation study”, Ryo Haraguchi, Takashi Ashihara, Taka-aki Matsuyama, Jun Yoshimoto, Journal of Arrhythmia (2021).
- “Computer Simulation of Anterograde Accessory Pathway Conduction in Wolff-Parkinson-White Syndrome with a Simplified Model", Ryo Haraguchi, Takashi Ashihara, Taka-aki Matsuyama, Jun Yoshimoto, Computing in Cardiology 2019.
- “Three-dimensional histologic reconstruction of remnant functional accessory atrioventricular myocardial connections in a case of Wolff-Parkinson-White syndrome“, Taka-aki Matsuyama, Ryo Haraguchi, Junko Nakashima, Kengo Kusano, Hatsue Ishibashi-Ueda, Cardiovascular Pathology (2018).
Acknowledgment
- 文部科研 基盤研究(C) WPW症候群の顕在化メカニズム解明に向けたシミュレーション研究 (2020-2022)
- 文部科研 基盤研究(C) WPW症候群における副伝導路位置推定と治療戦略に関するシミュレーション研究 (2017-2019)
- 静岡県立こども病院 芳本 潤 先生
- 昭和大学医学部 松山 高明 先生
- 滋賀医科大学 芦原 貴司 先生